こんにちは!リンクアンドモチベーションで、DX推進Unitのマネージャーをしている河野です。今日は、開発組織で現在取り組んでいる『Bootcamp』という取り組みについてご紹介します。
そもそもBootcampとは
『Bootcamp』と一言で言っても、様々な取り組みや定義があると思います。
リンクアンドモチベーションでは、従来の手法での開発業務を完全に停止し、生成AIなどの最先端技術を活用しながら新たな開発手法で取り組む「短期集中型の開発プロジェクト」をBootcampと呼んでいます。
2023年の5月〜6月にも「LLM Bootcamp」を実施し、その際は2ヶ月間の取り組みを通じて20個以上のリリースを実現しました。当時は、エンジニアメンバーを中心に15名ほどが関わる形だったのですが、今回はエンジニア以外の職種も含めた開発組織全体を巻き込んで、約70名のメンバーを対象に実施しています。
2~3週間を1つの単位として、3~5人のチームを組んでプロジェクトに当たります。一度に3~4チームが同時にプロジェクトを進める設計となっており、システムの保守・運用など、既存のお客様にご迷惑のかからない体制をしっかりと構築しています。その前提のもと、期間中の2~3週間は「Bootcamp以外の業務に一切取り組まない」状態を実現しています。
なぜBootcampをやるのか
取り組み内容を一見すると、「通常業務を止めてまでやる意味があるのか?」「本当に費用対効果に見合った成果が出せるのか?」といった疑問を抱かれる方もいらっしゃるかもしれません。私たちがここまで力を入れてBootcampに取り組む狙いを、ぜひお伝えさせてください。狙いは、大きく3つあります。
①最先端の技術を使い倒し、「アンラーン」と「トランスフォーム」を推進する
Bootcampにおいては、既存の開発手法やプロセスをいったんリセットすることを大切にしています。日々、劇的な速度でテクノロジーが進歩し、新たな技術が登場し続けていますが、通常の開発フローの中でそういった技術をフル活用することには困難が伴います。(既存実装からの制約があったり、開発マイルストーンの完遂を優先しなければいけない、といった様々な事情によって。)
そこで、Bootcampという通常業務とは完全に切り離された「実験場」を用意することで、フラットな視点とマインドで新たな技術に触れ、検証に取り組むことが可能になります。このことを通じて、自分自身の中にある「常識」や「前例」を疑い、新たな手法を積極的に試す機会としています。
具体的には、「職種に関わらず、開発組織の全員が新たなAI技術を活用できるようになること」をゴールとして定めています。一人ひとりの「アンラーン」と「トランスフォーム」を進めることを目指しています。
②課題を解決し、価値を生み出す力を高める
今回のBootcampでは、リンクアンドモチベーション社内の具体的な業務課題を、様々なAIツールを活用して解決することを目指しています。コンサルティング事業に従事する社員が取り組む業務の中でも、特に効率性が低かったり属人性が高かったりするものを選定し、それらを自動化するツールを次々と開発しています。
そのためには、業務フローを正しく理解した上で、「解決するべき課題」を適切に設定し、リアルなユースケースをイメージしながら「使えるツールに落とし込む」というプロセスが求められます。これを2〜3週間というタイトなスケジュールで完遂することによって、「課題設定力」や「価値創出力」の向上を目指しています。
③DXを推進し、コンサルティング事業の生産性を劇的に向上させる
試算によると、このプロジェクトによって開発組織が投下する時間はおよそ6,000時間にも及びます。しかし、今回計画している業務効率化がすべて実現されれば、1年間につき40,000〜45,000時間の業務削減につながることが分かっています。これだけの業務効率化が実現できれば、顧客とのコミュニケーションや中長期的な仕掛けなど、より本質的な業務への時間投下が可能になります。
昨年プレスリリースでも発表させていただきましたが、2024年度にはDXによる業務効率化を通じて、ある部門において「一人当たり売上高140%の実現」という成果を創出することができました。今年は、この成功事例を会社全体に展開することを目指しており、今回のBootcampもその一翼を担っています。
どのように進めているのか?
今回は、「フローエンジニアリング」と呼ばれる手法を用いています。
フローエンジニアリングとは、一連のタスクを単一LLMだけで解決させるのではなく、タスクを細かく分割し、それぞれを担う複数のエージェントやアプリケーションを組み合わせた「ワークフロー」として解決策を設計する手法です。
世の中で「AIエージェント」と呼んでいるものの実態は、ほとんどが「ワークフロー」となっています。(CursorやClineも、多くの「ツール」と、どのツールを使うかの「判断ノード」の組み合わせとなっています。)
自社のプロダクトや業務に生成AIを組み込むためには、「プロダクトエンジニアリング」だけでは不十分で、顧客の課題や業務を「ワークフロー」として捉え、その中にうまく組み込んでいく設計力が求められます。今回のBootcampにおいても、「実際の業務を劇的に効率化させ、大きなインパクトを創出する」というゴールの実現に向けて、フローエンジニアリングの手法を採択しています。
取り組みの成果
4月の3週目からBootcampを開始し、約1ヶ月間で計22人が参加し、28個のDXツールの開発が完了しています。結果、現時点ですでに約12,000h/年の削減効果が見込めています。(具体的には「管理システムの定型操作」や「数値データに基づく週次のグラフ作成」、「資料作成に必要な情報収集とドキュメント化」といった業務が自動化されています。)
参加したメンバーからも、以下のような声が上がっています。
【エンジニア】
業務の適切な理解と切り分けの重要性を強く感じる機会となった。闇雲に生成AIを活用するのではなく、レバレッジを最大化させるための工夫や考え方について、実践を通じて深く理解することができた。
【デザイナー】
n8nやDifyなどのツールを深く理解することができたし、「実際に使えるツール」を2週間で形にすることができたのも非常に楽しかった。加えて、デザイナーとしての通常業務に戻ってから、「ここは効率化できそうだな」と気付けるようになり、デザインプロセスの効率化に生成AIを活用するイメージも持てるようになった。
今後の展望
ここから6月末までに、計13チームが取り組むことが決まっており、Bootcampの活動はまだまだ続きます。1ヶ月間の取り組みを通じて、より効率・効果を高める開発アプローチのポイントも見えてきているので、PDCAを回しながらプロジェクトを進めていきます。
今後の取り組みの成果についても、改めてお伝えができればと思いますので、ご期待ください!