こんにちは。リンクアンドモチベーションのCREチームに所属している長谷川です!
生成AIは日々進化を続けており、個人でのAI活用による生産性向上に積極的に取り組まれているかと思います。
今回の話は個人の生産性ではなくチームでのAI活用による生産性向上の話になります。
私はCREチーム(※1)に所属しているのですが、CREチームは、お客様の体験の信頼性を高めることをミッションとしています。主な業務は、お客様からの依頼・問い合わせ対応、データ抽出・加工のような定型的な業務、日々の改善業務です 。依頼・問い合わせ対応の主な例は、プロダクトの仕様確認、障害の原因調査です 。また、定型的な業務は、既に用意されているツールなどを用いたデータ変更であったり分析に必要なデータ抽出作業です。
※1 Customer Reliability Engineeringの略で、Googleが提唱した概念です。
上記で示した業務をここでは「運用業務」と呼称して話をします。
我々の現状として、プロダクトの成長拡大に伴い運用業務は増え続けています。
しかし、抜本的な改善が難しい領域においては、効率化するにも限界があるという課題を抱えていました。
同様の課題感を持っている方も多いのではないでしょうか。
そして、このような課題を持っている場合、AIの可能性は手の届かないものに感じられるかもしれません。
運用業務は、無駄で無意味な仕事とは考えていません。しかし、こういった業務により時間は逼迫し、創造的な仕事に割く時間が少なくなってしまっているのも事実としてあります。
しかし、もしAIがこれらの業務を支援するだけでなく、代替することで、チームが真に創造的な仕事に集中できるようになるとしたらどうでしょうか?
私が所属しているCREチームもまさにこのジレンマに直面していました。
ここで一旦、仕事というのを以下の図で示すProcess Knowledge Spectrumで考えてみます。
仕事は「イノベーションの業務」「複雑な業務」「ルーチンの業務」に分けられます。
「イノベーションの業務」というのは、野心的であるか小さな目標であるかに関わらず、期待される特定の結果を得る方法についてまだほとんど知られていない、つまり、過去の経験だけでは達成できない目標を持つ業務です。新規事業や新規のサービスやプロダクトを開発するのはここにあたります。
「複雑な業務」というのは、過去の経験や知識で物事を進め、また状況変化があるなかで新たな知識を獲得したりしながら目標を達成する業務です。例えば、初対面のメンバーで結成したチームで機能開発をするようなプロジェクトがここにあたります。プロジェクトの進め方については、概ね体系的なフレームが確立されているがお互いのスキルも把握できていない状態なので不確実性が高いといったものです。
「ルーチンの業務」というのは、体系化されたプロセスにより不確実性が入り込む余地が限りなくない業務です。

我々エンジニアとしての理想的な状態は、「複雑な業務」や「イノベーションの業務」にどれだけ向き合い、新しい何かを生み出していくか、だと私は考えています。
この理想的な状態に近づけるべく私たちはCRE OASISという仕組みを開発しました。OASISはOperational AI Support & Integration Systemの略称であり、造語です。
OASISは単なるAIツールではありません。運用効率に対する私たちのアプローチを根本的に変えるものです 。これは、手作業を劇的に削減し、将来のワークフロー統合とシステム拡張の基盤を築くことで、CREチームを強化するために構築されたプラットフォームです 。
というと、仰々しいですが、アーキテクチャはいたってシンプルでAWS上にClaude CodeをインストールしたEC2で構成されています。
CLIと文脈を理解するAIの力
多くの運用業務では、ウェブブラウザやSQLクライアントのデスクトップアプリケーションなど、複数のアプリケーションをまたいで作業する必要がありました。この分断されたワークフローは、自動化を困難にしていました 。OASISのソリューションは、すべての作業をターミナルベースの環境に統一することでした。OASISは、あらゆる作業をターミナルベースの環境に統合するソリューションを提供しました。これにより、「複数アプリ跨ぎ問題」が解消され、自動化可能なワークフローが実現しました 。
変革は、特にClaude Codeの機能を活用したことによってもたらされました 。これにより、以下のことが可能になりました。
- AIによる自動作業実行: AIがタスクを自律的に実行できるようになりました 。
- 文脈理解による柔軟な対応: 依頼内容に表現の揺らぎがあっても、AIが意図を理解し、適切に対応できます 。
- カスタムコマンド: 安全で効率的なタスク実行を確保するために、専用のタスク実行コマンドを作成しました 。
手作業の連鎖から自動化されたワークフローへ
OASISが現在処理している一般的な運用ワークフローを紹介します。
OASIS導入前(手動プロセス):
- JIRAなどのタスク管理システムから作業依頼を受ける 。
- 依頼内容を確認する 。
- 作業ミスを減らすために作業手順が記載された作業管理チケットを作成する。
- 作業手順に則りSQLクライアントツールを使用してデータベースから作業に必要な情報を確認する 。
- 作業用のコンテナにログインし、コマンドラインからツールを実行する 。
- 生成されたCSVなどのデータファイルをダウンロードする。
- ミスがないかアウトプットをダブルチェックする。
- 元の依頼チケットにデータファイルを添付し、依頼主に作業完了を伝える。
このプロセスは、ルーティンではあるものの、作業者の熟練度によっては約3時間ほどかかる作業でした。
依頼チケットの依頼内容もある程度のフォーマットは決まっていますが、ガチガチに決めていないため、文章表現に揺らぎがあります。それをプログラムで抽出しようとするとパターンを作成しなければならず、パターンを作成するのも新たなパターンが生まれた時のメンテナンスも大変です。
OASIS導入後:
- 作業依頼を受ける 。
- 人がOASISに指示する。
- OASISがcurlコマンドを使用してAPI経由で作業内容を確認する 。
- OASISがCLIのSQLクライアントツールを使用してデータベースから作業に必要な情報を確認する 。
- OASISがコマンドラインでツールを実行する。
- OASISが生成されたデータファイルをダウンロードする。
- OASISがcurlコマンドを使用してAPI経由で依頼チケットにファイルを添付する 。
- 人がデータファイルをチェックし、問題なければ依頼主に作業完了を伝える。
作業をCLIベースに標準化することで、AIに人間が行っていた作業をトレースさせ、大部分を代替することができました 。
ただし、前提としてこれまでの先人達のおかげで成熟した作業フローが確立されていたのもAIに代替できた大きな要因です。先人達に感謝とリスペクトです。
具体的な成果:時間短縮、チームでのスケール
OASISの導入効果により、まだ、特定の業務に関してのみですが作業時間を83%削減できました 。つまり、約3時間かかっていた作業が、OASISを利用することで約30分で完了できるようになりました 。
AIによる業務代替の展開は既に進行中であり、複数ある定型業務を対象として代替が進んでいます 。CREメンバー全員がOASISを活用し拡張させスケールさせています。
AIは人間よりも高速にタスクを実行し、安定した品質の成果物を提供してくれます。
今後の展望:完全自動化とイノベーションの強化
現在、私たちは「Human in the loop(※2)」モデルを採用しており、人間が介在しながらAIの行動を導き、検証する役割を担っています 。次のステップでは、自動化の範囲をさらに拡大していきます。
※2 AIが単独では判断が難しい、あるいは間違いやすい場合に、人間の判断や介入を組み込むことで、システム全体の精度や信頼性を向上させるアプローチ
例えば、依頼通知をトリガーとしてAIが自律的に作業を開始・完了できるような、完全自動化を見据えたインテグレーションの構築を目指しています 。
CRE OASISは、運用タスクに追われる開発者にとって希望の光となります 。これらの運用業務にAIを戦略的に適用することで、エンジニアがより進歩を推進する創造的な仕事に集中できるようになります 。この取り組みは、改善困難であった運用課題を解決し、新たな業界標準を確立する取り組みだと考えています。
AIを活用したCREチームのさらなる発展にご期待ください!